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小泉大臣の育休について考える。

2020/01/17

同年代の小泉進次郎大臣が育休を取るということが話題になっています。

私も1歳と3歳の子どもを持つ子育て世代ですが、私が同じ立場なら育休はとりません。これは政治や経営における価値観の違いや、家族との関わり方の違いですので、どちらが正しいとかはないと思います。

その上で、せっかく決断した小泉大臣には堂々と育休を取得した上で、抽象的なポエムで終わらない具体的な政策ソリューションを語っていただけることを期待したいと思います。

政治の役割には「仕組みや制度の構築」と「価値観の啓発」の2つがあります。
社会への啓発やメッセージ性などといったパフォーマンスの類は全くの無駄ではありません。しかしながら、具体的なソリューションを提示しないままに、少しばかり影響力のある議員が育休を取ったことくらいで、この問題を取り巻く社会の根本的かつ構造的な課題は解決されるものでもありません。

多くの人は、男性の育休を阻むのは「男のくせに育休とるなんてありえない」的な日本の伝統的風潮のせいだと思っていて、小泉進次郎さんのような有名な人が育休をとれば、社会全体でみんな取れるようになると印象づけています。データを見れば確かにその一面はあります。しかしこれを大多数に当てはめるのはミスリードですし、本来目を向けるべき論点に目が向けられなくなります。

こういう発想が出てきやすい人は、大企業とか公務員とかをイメージして言っていて、比較的恵まれた境遇の方が多い。おそらく、まわりの友人や知人に、良い大学を卒業して大企業に勤めている人とか、公務員とか、起業してすでに成功している人とかが多いのかもしれません。

確かに、比較的経営資源の豊富な大企業では育休を取得しやすい雰囲気を作ることが一番のソリューションになる現場も多くあります。それは進めるべきです。というか、経営層がリーダーシップを発揮すれば、明日にでも進められます。

一方で、私がここで指摘したいのは、もっと構造的な課題です。

個人事業主は休めば収入がなくなるので、よく引き合いに出されますが、実はこの問題、難しいのは中小企業の従業員です。
例えば、男性の子育て世代は働き盛りでもあります。中小企業におけるこの世代はエース級です。仮にこのエース級が育休期間マックスとると収益として数百万円や数千万円のダメージを受ける企業は沢山あります。場合によっては、お店や部門を閉鎖することもあります。
医療、介護、福祉などの分野で施設の人員基準に該当する職責者が長期休暇をとると、事業所閉鎖するしかないケースもあります。

実はこの育休と許認可事業などの人員基準の関係性については、厚生労働委員会でも取り上げました。

※18分くらいから育休について語っています。↓
https://www.youtube.com/watch?v=MyUG8WHJh4Y

 

考えてみればすぐにわかることですが、
社員数の少ない中小企業は、一個人の戦力が全社に影響する割合が大きく、労働市場の流動化も進まずに大企業正社員が固定化している今の社会構造においては、労働力不足の厳しい現実の中では替わりの採用が難しい。仮に替わりの人員を雇用できたとしても、育休明けて復職すれば人員過多に陥る。採用難の時代、都合よく育休期間だけ穴埋めしてくれる代替人員を探すことは至難の技です。
そして、そもそも中小企業の約7割は赤字経営です。

このような場合、社長や上司がいくら優しかろうが厳しかろうが、自分が育休をとることと、会社にかなり大きな収益的ダメージを与えることとの、2つの「リアル」の狭間に直面して決断を迫られることになります。
これは正直ツライですよね、本人も会社も。真面目な人や責任感のある人ほど悩むし、手を上げにくい。

これは意識の問題ではなく、構造の問題です。

よくIT関係で成功した起業家が、これを機に業務効率化や人依存体質から脱却すべきだ!とか、1人くらい育休してダメージを受ける企業はダメだ!とカッコよく語るのを目にします。
確かにその通りではあります。

しかしながら、中小零細企業はそのステージに達していない所の方が多く、社会構造を考えれば、これを経営力の無さで片付けるのは乱暴です。企業の生産性は経営力にも依存していますが、一方でビジネスモデルに依るところが大きいのも事実です。
そもそも労働集約型のビジネス領域に属する企業は、1人当たりの売上高や収益といった視点でいう生産性向上をすぐに起こすことは不可能に近いのが現実。
そして、生産性向上を成し遂げたIT企業の多くは、そういう労働集約型の企業に支えられているところもたくさんある訳です。
わかりやすい例で言えば、超効率化されたEC企業は、超労働集約型の配達員に支えられているというビジネス構造のようなものです。

ちなみに日本では、中小企業の数は99%以上で、大企業は1%以下。中小企業の従業員は労働市場全体の約70パーセント、そのうち4分の1程度は従業員数20人以下の小規模事業者です。

このようなケースは多くの中小企業に起こり得る問題であり、議員や有名人が派手なパフォーマンスしたところで解決される問題ではありません。
これらの社会にリアルに横たわる構造的課題に対して、政策的ソリューションを持ち合わせていないのにパフォーマンスする議員は、私は価値が無いと思っています。
なぜならそう言う議員は、自分が一石を投じた(と勘違いしている)問題が進まなかった時には、企業の努力不足として責任をなすりつけるしか手が無いからです。

誤解して欲しくないのですが、パフォーマンスをすること自体が悪いと言っているのではなく、構造的課題に対する具体的な政策ソリューションを持ち合わせずパフォーマンスすることに嫌悪感があるだけです。

これまでいくつか提案がありましたが、分割取得、時短取得、消化期間の延長には賛成です。また、許認可事業や指定事業の人員基準においては条件付き緩和などの柔軟対応も検討すべきです。
加えて、業種や職種によって事情は様々ですが、時短やフレックスなどの多様な働き方の推進や、本丸である雇用の流動化をはじめとする労働市場改革と合わせて制度設計を考えるのが本来のあり方だと思います。

育休の問題は、子育て政策であり、社会保障政策であり、労働政策であり、中小企業政策です。
労働市場改革と合わせて、このあたりの政策をパッケージ的に語ることも、今後やっていきたいと思います。

 

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