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私の経済政策に対する考え方〜「日本大改革プラン」とベーシックインカムについて〜
2021/08/06
先日、とある記者さんから、維新の経済政策と「日本大改革プラン」についてインタビュー取材を受けました。自民党や立憲民主党との政策思想の違いを含め、維新がどのような経済システムを目指していくのか、お話ししております。
インタビューの内容から言葉足らずの部分を補足・加筆してブログにまとめました。少し長文ですが、ご笑覧くださいましたら幸いです。
またこのインタビューについては、他党議員へのインタビューも含めて9月頃に本にまとめて出版されるようですので、全編はそちらをご覧いただけたら幸いです。
「日本大改革プラン」の資料はこちらをクリック!
日本維新の会「日本大改革プラン」記者発表 生中継 ↓
--総選挙2021・参院選挙2022にむけて、日本維新の会はどのような経済政策を掲げていきますか?
藤田)私自身、党のマニフェストPTと政務調査会副会長のお役目をいただいておりまして、党内でもいろいろ議論を進めてきました。もともと維新の会の経済政策の考え方は、いわゆる「富の創出」と「富の分配」ってものがあったとしたら、「富の創出」は民間の力をいかに使うのかというのがポイントで、もう一つの「富の分配」や経済活動の環境整備というものが国家や行政の仕事であると整理をしています。
先日、衆議院選挙に向けての目玉政策として、「日本大改革プラン」という政策パッケージを発表させていただきました。これは、与党自民党のいわゆる現状維持・微修正型の経済政策や社会保障政策に対するアンチテーゼも含め、アフターコロナの時代にこの日本の国をどのような社会システムに変えていけば経済が活性化し、同時に格差解消が導かれるのかということを考えたものです。
ここに維新の経済政策の考え方をふんだんに盛り込んで設計したわけですが、その中で私たちはいくつかの重要なポイントを挙げています。
第一に、日本の社会保障やセーフティネット機能が平時でも脆弱で不公平であることに加えて、有事にはうまく機能しないということが今回のコロナで浮き彫りになったことという課題設定です。それに対する解決法として、果敢なチャレンジを後押しするような「チャレンジのためのセーフティネット」を再構築しようという発想が根幹にあり、私たちはその代表的な手段としてベーシックインカムを今回の政策提言の中に盛り込みました。賛否両論含め、まずは大いに論戦を巻き起こしていきたいという意図があります。日本経済の深刻な問題はフローが目詰まりしていて、GDP(国内総生産) がなかなか自然増しない時代だということ。逆に、ストック(資産)は個人の預貯金も、会社の内部留保も、どんどん溜まっていってしまっている。つまり、ストックは溜まっているのにフローが目詰まりしているという歪な状態です。この流れを変えていくために、経済の流れを制約しない「フロー大減税」をやっていこうというのが一つ目の経済政策です。具体的には消費税、所得税、法人税という税収の大きな3税を一括して減税するのが効果的だと思います。
※日本経済の問題点について、データを用いて簡単に解説しています。↓
二つ目が規制改革です。私たちはこれまで色んな分野で規制改革に取り組んできましたが、政府も与党自民党も非常に消極的です。私たちは、各分野の規制改革をしっかりやって、民間の活力を最大限に使っていこうということが方向性の柱です。そして、その規制改革の本丸はすべての領域に波及する労働市場改革だと思っています。個別の現場(ミクロ)での生産性を上げるのはそれぞれの企業の仕事であって、そこに手を突っ込みすぎるのは政治や行政の仕事ではありません。チャレンジのためのセーフティネットがあることを前提として、労働市場を流動化・活性化し、労働力が成長産業へスムーズに移動することや適度な新陳代謝を促すことよって生産性の高いマーケットがマクロで実現できるような方向性を目指すべきです。
私は今40歳で、ぎりぎり就職氷河期世代です。就職時にうまく労働市場に参入できなかった世代は、上の世代より労働条件が悪かったり、雇用の安定性が低かったりする人が多いというのが就職氷河期世代問題。そういう人たちの収入はデータで見ると上の世代より少ないですし、うまく資産形成ができず、年金もきちんと払えていないままお年寄りになる可能性が高い。そうすると「低年金無年金問題」へと繋がり、多くの人たちが十分な年金をもらえないかもしれず、それはそのまま「老後生活保護問題」へと繋がってしまいます。そういう問題があるからこそ、社会保障と労働市場も切り離せません。だからこの三位一体をパッケージにして提案しようというのが、今回の日本大改革プランに盛り込んだ趣旨です。
日本社会における労働市場の大きな問題は、人材の流動性が低く、固定化された構造が存在するということです。最初の入口で権利を得られると、ある程度その権利が守られ続けますが、最初の入口で弾かれてしまった人は、この後ずっと参入しにくいという現実があります。
※労働市場改革について動画で解説しています。↓
まとめると、税はフロー大減税(フロー課税偏重からストック課税とのバランス重視へ)、産業構造転換のための規制改革、特に労働市場改革。そして、チャレンジのためのセーフティネットの構築を目指した社会保障制度の抜本改革。このあたりを経済政策として盛り込みたいと思っています。
--日本維新の会の所得税、法人税の考え方は?
藤田)日本大改革プランで発表させていただいた内容をお話しします。そもそも税制を議論するとき、選挙になると消費税を上げるか下げるかという話ばかりが争点になるんですね。私はこれが最大の問題だと思っています。税といっても種類は色々あります。フロー3税の消費税、所得税、法人税のほかにも固定資産税もあれば相続税もある。タバコ税もあれば酒税もあるわけです。税制を俯瞰して、全体的・体系的に改革しないといけないという問題意識が根幹にあります。
私たちが考えているのは、消費税は時限的には5%で、恒久的には8%まで戻さないといけないというのが一つ。特に無駄な運用コストがかかっている軽減税率を廃止することです。軽減税率のような非効率な制度がミックスされているのは税のシンプルさを阻害していて、やはり一度はベースの税率を下げることをやるべきです。
所得税は時限的にではなくて、恒久的に今よりも大幅に手取り額を増やすことをやるべきだと思います。累進課税ではなくフラットタックスのような仕組みを取り入れることで超シンプルな制度を実現します。フラットタックスにした上でベーシックインカムや給付付き税額控除と組み合わせて、すべての給与所得者の手取り額が増えるように設計し直すのが理想です。実際に私たちが試算しているのは、給与所得者の75%程度にあたる年収700万円以下の方が実質所得税ゼロになるような設計をフラットタックスとベーシックインカムの組み合わせによって実現し、消費喚起型の所得税制を目指すべきだと考えています。
それから最後に法人税の話です。世界では法人税下げ競争の弊害に歯止めをかけるため、国際協調によって法人税の下限を決めましょうという流れですが、そもそも日本はその法人税下げ競争の土俵に上がれるほど税率が低くないわけです。国際競争力の観点から法人税はもう少し下げるべきだと考えています。
このように、一つ一つの税をぶつ切りで議論するのではなく税体系一体的に、特に消費税、所得税、法人税の3つについて効果的な税率の組み合わせを検討すべきだと思っています。
--立憲民主党なんかは、所得税、法人税はむしろ累進性を強化しろという。例えば今、所得税の最高税率が年収1億円の方で、それ以上、稼ぐと税率が下がっていますよね。あるいは法人税は、1000円以下の企業は法人税が13.5%、1億から10億の企業が19.6%。ただ100億円超になると法人税が13.0%と1000万円以下の企業よりも税別で低くなってしまう問題がありますが、どうお考えですか?
藤田)そこは我々の問題意識と同じでして、個人の所得税率の逆転現象はいわゆる「逆累進性」という問題ですね。先ほど、“給与所得”者の所得税の話をしましたが、高額所得者で年収1億円ぐらいを超えてくると利子や配当といった“金融所得”での収入の方が圧倒的に多くなっていきます。そしてそこが分離課税という仕組みになっていて、高額所得者ほど税率が低く抑えられているというのが不公平であるという問題です。この不公平の解消のために、フラットタックスでベースの税率を下げつつも、逆累進性を是正すること。高額所得者であっても不公平に途中で実質税率が下がることなく、かつ重税感を生む累進課税で過剰な税率になることもない、公平でシンプルな設計を考えています。
次に、法人税に関してですが、一番の問題は租税特別措置だと考えています。租税特別措置によって、この業界にはこういういう優遇、こういう補助金、こういう助成金みたいなものをある種の裁量で配るということは、ベースの税率を高く設定したままいつまでも下げられない最大の要因です。租税特別措置は、全部暗記している人いないぐらいたくさんあります。導入時は必要だったかもしれないけども、時代の変化とともに不必要になっているものもあるはずなのに途中でやめられない。なぜなら、それ自体が既得権益化しているからです。私は、租税特別措置は一旦全廃するぐらいの気持ちで改革をすすめ、全員が等しく恩恵を受けられるようにまずはベースの税率を思い切って下げるべきだと思います。それが一番で公平でシンプルな税制だろうということです。個別の事情に個別に様々な手当てをしていって、制度がどんどん複雑化していくということは、別に誰のせいでもなくて、言ってみれば政治や行政における自然現象だと思います。ただそれが積み重なって複雑化しすぎたなら、一旦立ち止まってシンプルにもう一度作り直す。その上で個別事情にもう一回手当てする方法を考えなおすというサイクルを踏まないといけないと思います。しかし、制度を一旦シンプルに構築し直すということに、政府も与党自民党も非常に後ろ向きですね。彼らには業界や既得権益とのしがらみがありますから。例えば、租税特別措置を全部無くすなんて言ったら、そこで恩恵を受けている業界から総スカンを食らって支持を失います。まさに「票」に関わりますから。でも私たちは、そういう改革こそ勇気を持ってやるべきだと思います。税制で言うと、全体のベース税率を下げることを思い切ってやるかわりに、既得権益化した不公平な税制をすべて廃止するくらいの改革をやるべきなのです。
私は、税の一番の問題は「重税感」だと思うんです。税率の高い低いだけが問題ではなく、すごくたくさん取られているように感じたり、不公平に取られているように感じたりすることが問題だと思います。私はもともと民間企業経営者なので、いつも税はマーケティングが重要だという考え方をしています。富裕層の方がいかにズルせずに、気分良く支払えるような制度にするかを考えるべきです。たくさんの資産や所得がある人が少しくらい課税されたとしても、その資産を有効活用することで、社会経済活動が活発に動いて流動化し、資産価値自体が上がっていくから不合理な「重税感」を感じにくくなる。そういう経済構造を作り上げることが大事です。
--維新のベーシックインカムに対して、福祉切り捨てのような誤解や批判がありますが、ベーシックインカムの制度設計の詳細を教えてください。
藤田)ベーシックインカムという手法は、すべての国民生活と経済活動を下支えする「チャレンジのためのセーフティーネット」の一番シンプル版だと思っています。ベーシックインカムには2つのパターンしかないような、間違った分類を目にすることがあります。一方が、ベーシックインカムを導入する代わりに、その他の社会保障は全部廃止するみたいな、弱肉強食的な考え方。もう一方が、既存の社会保障は全て残してプラスアルファでお金を配り、その財源は国債で全て賄うというもの。ベーシックインカムというと、この2つしかないようなことを印象操作されるんですが、私たちはこのどちらの立場でもなくて、中間型であり改革型です。
少し考えてもらえれば分かりますが、例えば障がい者の支援などは千差万別なケアをしていかないといけません。これをすべてベーシックインカムに置き換えて、障害福祉サービスは自己責任でやってくださいなんて事実上不可能ですよね。つまり、社会保障全廃型のベーシックインカムなんていうものが不可能だというのは明らかです。これを真面目に訴えている学者を私は見たことありません。だから社会保障全廃型のベーシックインカムがどうこうみたいなことを言っている人は、もう少し真面目に勉強された方が良いですね。
維新の考えるベーシックインカムは、既存の現物支給の社会保障サービスである医療、介護、福祉、教育といったものは個別の改革は必要ではあるけれども基本的には据え置きする。ベーシックインカムで同様の効果を提供でき、整理統合できるものはする。一番の本丸は、高齢者のセーフティネット機能でもある年金制度の改革。次に貧困層の最後のセーフティネット機能である生活保護の改革です。そしてベーシックインカムによって中間層から低所得者層の方々の可処分所得を大幅に上げていく。これは消費を喚起するというコンセプトの経済政策でもあり、脆弱なセーフティネット機能を再構築するという社会保障改革でもあります。だから私はこれを「再分配の仕組みの再定義」とも呼んでいて、チャレンジのためのセーフティネットが社会全体の下支えになり、前向きな活力を生んでいくようなベーシックインカムを目指すべきだと思います。
--生活保護制度の問題点は?
藤田)生活保護制度はいろんな問題がありますが、今国会で菅義偉・総理と蓮舫・参院議員のやりとりがとても象徴的でした。総理がコロナ禍においての貧困層について「最終最後のセーフティーネットは生活保護がある」という趣旨の発言をされ、それに対して蓮舫議員が「生活保護に陥らないようにするのが政治の仕事だろう」と煽りました。実はどちらも制度の説明としては正しいことを言っています。
生活保護というのは有事のセーフティネットには適しておらず、一度入ったら出られないという特徴があります。生活保護制度をひと言で言うと「狭く深い、抜け出しにくいセーフティネット」です。できるだけ狭く少ない人を選んで、そして深く手厚く支援する。深く支援しすぎるうえに、働くと減額されるから抜け出しにくいという悪いスパイラルが発生しやすい制度になっています。つまり、トランポリンのように帰ってこられない制度なんですね。これは「貧困の罠」と呼ばれる問題です。
また一番の問題は、制度の捕捉率が低いということ。生活保護水準以下の貧困層の方で、生活保護制度を使っているのは約2割と言われていますから、残り8割の人たちはとても貧しいけど制度を使ってない、いわゆるワーキングプアと呼べる状態です。働いているけれども貧しい。これが生活保護制度を使っている人との不公平感を生んでいます。加えて、基礎年金との関係性で、年金を受給している方より生活保護を受給してしまう方が豊かになってしまうという逆転現象もあって、こういった不合理を整理すべきだと思います。
生活保護という制度は、居住地域や家族構成などいろんな計算式で受給額やサービスが決まります。内訳として大きなものは、いわゆる生活費部分である生活扶助、お住まいを手当てする住宅扶助、それから医療が無料になる医療扶助の3つが柱です。生活扶助部分はいわゆるベーシックインカムに吸収すべきだと思います。そうすると、生活保護制度を使っていないワーキングプア層のような働けど豊かにならない人たちも救済できる上、今の生活保護受給者たちも損をしない。住宅扶助部分は、公営住宅や空き家対策といった地方自治体の住宅政策に国がしっかりと財源的な支援をした上で進めていくということによって受け皿をちゃんと用意する。医療費は生活保護の人だけを無料にするのではなく、それ以外の方も含めて一体的に改革し、負担率を年齢区分から所得区分に改めることで一体的に吸収できます。こうしたシンプルな制度を目指すことで、不公平感をなくすべきであると考えています。
※生活保護制度の問題点について動画解説しています。↓
--ベーシックインカムをやる、減税をやるということで、必ず反論として出てくる財源問題。どのように試算しているか?
藤田)財源の考え方はいくつかあるのですが、一番ボリュームの大きいのは税と社会保障の組み替えです。先ほど申し上げたように社会保障は統合できるものは統合する。例えば、既に財源の半分が税金でカバーされている一階部分の基礎年金は統合したらいいんじゃないかと思っています。これはなぜかというと、今でもすでに低年金無年金の方が数百万人いらっしゃって、その方たちは満額貰えてない状況で、結局その方たちは貯金がないと生活保護制度で救済するしかない。この一点を見ても、年金制度はセーフティネット機能として持続可能性があるのかというとかなり疑問が湧いてきます。持続可能なセーフティネット機能を再構築するという観点からもベーシックインカムへの統合は合理的です。児童手当や生活保護などの整理統合や制度の組み換えを進めると、ベーシックインカムの財源がまるまる追加で必要とはなりません。
※基礎年金の問題点について動画解説しています。↓
ただしプラスアルファで必要なコストはもちろんあります。財源の例としては、不公平な税制の解消も一つです。例えば先ほどお話しした所得税の分離課税から総合課税への改革。逆累進性を是正することで相当な財源が出てきます。また行政システムの効率化によって無駄を省くことで相当な行政コスト削減が実現できます。行財政改革は私たち維新の会が大阪でもずっと取り組んできて実績を積み上げてきた得意分野です。
それから、税や社会保障の徴収漏れが現行制度では相当な額になると専門家も指摘しています。いわゆる税逃れとか社会保険料逃れみたいなものですね。これをマイナンバーのような制度インフラをしっかり運用し、シンプルな制度で公平で透明性の高い徴収が実現できれば、軽く10兆円を超える財源が出てくると試算されています。加えて、生活保護は不正を防ぎ、適正な給付を実現するためにするために役所の水際対策をはじめとする行政コストが負担となっています。このような行政コストをしっかりと効率化して下げていくということができます。ここまで話すとわかっていただけると思いますが、私たちが考えるベーシックインカムは「改革型のベーシックインカム」なんですね。
そして最も大事なことは、経済成長だと思います。改革によっていかに生産性と流動性が高い社会を設計していくかということです。経済を成長させ、シンプルな税制と透明性の高い制度インフラで公平な捕捉が実現できれば、それが税収増に直結します。私たちのプランの財源の試算については、専門家に入ってもらって相当細かいシミュレーションで積み上げをしてきましたが、十分に実現可能な範囲であると考えています。
--次に伺いたいのは、欧米はコロナで経済が一旦落ち組みましたけれどもは今V字回復しつつあります。なぜに日本経済はコロナ不況から脱出できないとお考えでしょうか。コロナ不況から脱出するには何が必要だとお考えかお聞かせください。
藤田)いくつかの視点がありますが、コロナを乗り越えて経済を活性化させるには、やはり感染拡大を収束させないといけません。そのときに、現政府の最大の問題は有事の法整備が無いこと、それに対して真正面から取り組もうという姿勢が皆無だということです。今回の危機を乗り越えるだけでなく、今後同様の感染症や災害が起きたときのために有事の法整備を整える必要性があります。しかし私が危惧しているのは、なんとなく世界のコロナ禍が収束して経済優先になっていくのを横目に、日本もなし崩し的に収束したことにするという流れになるのではないかということです。これはまさに、1年半のコロナ対策の教訓や反省を全く活かすことできないダメな政治と言えますよね。すでに政府は撤回しましたが、西村大臣の対応のまずさで炎上したお酒を販売する飲食店への対応は、法的根拠がない中での要請ベースで取引業者や金融機関、行政からプレッシャーだけをかけるなどという非常に傲慢なものでした。よく言われますが、休業要請と補償はセットであるべきで、法的裏付けをしっかり整えた上で事業者にちゃんとスケジュール感と経済的支援を明確化して準備をさせてあげること。そういう当たり前のことができていないことが、現政府のハンドリングの悪さです。
それからそもそも論として、コロナで多くの皆さんが将来不安を抱えていますから、やはりセーフティーネット機能の話に向き合わなければなりません。将来不安を少しでも取り除き、多くの国民がチャレンジに向かうためのセーフティーネット機能を再構築することこそが、コロナ禍を機に覚悟を決めて取り組まなければならないことです。
※有事のセーフティネット機能について予算委員会で議論しています。↓
財政出動に関しては私自身はあまりネガティブでなく、こういう危機的状下にこそやるべきだと思っています。GDPギャップ(一国の経済全体の総需要と供給力の差のこと)が直近で30兆円ぐらいありますから、やはりここは時期を見て、積極果敢な財政出動で後押ししながら、同時にアフターコロナの産業構造転換を進めることをやるべきです。私たちは国政では与党ではありませんが、後手後手の政治というご批判を政治家の一人としていろんな方に受けます。まさにその言葉はその通りで、先手先手の政治、先を見据える政治によって、事業者や生活者が本当の意味で希望を持って先を見据えられるような政策提案やスケジュール提示をしなければならないと思います。
--日本維新の会は「身を切る改革」のイメージから、ともすれば緊縮路線だと思われてしまっていますが、どうお考えですか?
藤田)これは、けっこう誤解されています。維新の会はもともと地域政党・大阪維新の会として取り組んできた大阪の改革からスタートしました。地方財政には通貨発行権がありませんから、入りと出をバランスさせるという一般企業と同じ認識でやるというのは当たり前のことです。徹底的な行財政改革を実行して、浮いた財源を将来に投資するというシンプルな改革で実績を出してきましたから、そう誤解されているのかもしれません。ただ私たち維新の会が身を切る改革をずっと言い続けてきたのは、積極財政か緊縮財政かというお話をしているわけではありません。
では何を言っているかというと、政治または政治家の改革としてやっています。身を切る改革って、簡単にいうと自分たちに厳しくやりましょうという話です。改革を進めるためには自らが議員の立場にしがみつかない強い姿勢が必要です。例えば議員定数を削減するってことは、自分たちの身分をなくすことにつながるけども、敢えてそれをやろうと。透明性を重視して、国会議員に支給される文書通信交通滞在費は使った領収証をちゃんと公開しましょうとも言ってきました。これで、セコいことなんてできませんよね。議員報酬は国民の皆さんが苦しんでいるのだから下げましょう、高すぎる報酬は下げましょうと。でも維新以外の政党はこういう取り組みにものすごく消極的で、たぶんみんなイヤなんですよ。人間というのは、ちょっと甘くしたらどんどん自分たちに甘くなっていきます。だからこそ、政治改革、政治家改革としての身を切る姿勢というのは最も重要なことで、私たちは結党以来のアイデンティティとして大切にしてきました。
--小泉内閣が格差を広げたのかどうか議論がありますが、30年単位でみると格差が広がってきたと言われています。これをどのように是正するべきだとお考えでしょうか。
藤田)私自身、小泉改革悪玉論みたいな主張には賛同しませんが、その後の経済指標を客観的に評価すると、政策的にはいろいろ反省すべきところがあると思います。その前に整理すべき論点として、よく言われる経済成長をとるか格差解消をとるか、いわゆる成長重視か分配重視かみたいな話があります。私はそうした二元論ではなく、今後は経済成長と格差解消を両輪で実現するという政策設計をすべきだと思っています。
特に格差はこれから資産の格差が大きな問題で、これはそのまま所得の格差に繋がっていくことに着目しなければなりません。資産格差の問題は、先ほどお話しした逆累進性のような不公平な税制に繋がるし、高齢者と若者の世代間格差にもつながります。資産格差をどう解決していくかに目を向け、今こそ経済成長と格差解消の両輪で良い方向に向かう政策を考えるべきです。それから、これからの社会構造としてAIをはじめとしたテクノロジー技術の急速な進化や、産業構造の転換がものすごいスピードで進みます。こういう時代には、資本を持っているところに富の集中が加速するという現象が必ず起こります。だからこそ、セーフティネットとしての再分配をシンプルな仕組みで行える社会を目指すべきで、その手段としてベーシックインカムや給付付き税額控除が有効だと考えています。
かつてのハコモノ行政や補助金には、行政システムにおける中抜きみたいなもの、いわゆる恣意的な裁量行政みたいなものがたくさんあって、これを極力減らして民間活力を最大化させることで広がったパイをちゃんと分配していく。すべての力の源泉は民間活力による成長であるという考え方でやるべき時なんじゃないかなあと。だからよく語られる成長戦略も、とにかく規制緩和だけとか、反対に社会主義的な分配政策かっていう二元論ではなくて、再分配をしっかりやることがチャレンジのためのセーフティネットとしてそのまま経済成長につながっていくというような考え方で新しい社会像を創り上げていかなければならないと思います。
--アベノミクスの現時点での総括はどの様にお考えでしょうか?
藤田)アベノミクスの三本の矢は金融緩和、財政出動、そして成長戦略でした。そして成長戦略の柱は「規制改革」だったはずです。金融緩和と財政出動はいわゆる選挙の洗礼を受けずに政策決定ができてしまうわけで、政治的には比較的ハードルが低い。だから、どの政権であっても実行できたと思います。本当に取り組むべき本丸は成長戦略や、規制改革であったはず。金融政策で環境を整え、財政出動で背中を押し、規制改革や成長戦略で本当に足腰の強い産業構造をつくっていくというのが本来のストーリーだったはずです。しかし、この規制改革については多くが骨抜きになり、全く進まなかったと言っても過言ではありません。だから1本目2本目の矢は良かったけど、3本目は全くダメだったというのがアベノミクスの評価です。
例えば最近で言うと、農地の法人取得事業なんかが分かりやすい例です。特区指定された兵庫県養父市(やぶし)でとても良い結果がでて、この事例を横展開して全国に広げようと期待されました。しかし、結果的に全国展開は拒否されました。農水省も農協も本音は大反対で、自民党の農林部会なんて、「そんなとんでもないことをやるな!」みたいな酷い決議文まで作成して族議員たちが寄ってたかって全国展開をやめさせたわけです。規制改革にはこういう骨抜き事例が山ほどあります。だから繰返しになりますが、結局アベノミクスの評価はと問われれば、金融政策と財政出動はそれなりに効果を出したかもしれないけど本丸の成長戦略や規制改革は全くダメだったというのが答えだと思います。
※自民党の農林部会の決議文 ↓
--維新の成長戦略はどのようなものか?
藤田)根本的な考え方は、民間活力をいかに最大化させるかということに尽きると思います。様々な業界でイノベーションや新規参入の足枷になっている規制を大改革して、民間の持つポテンシャルを開放していく。そして、規制改革の本丸である労働市場改革を進めて流動性と生産性の高い経済を目指していくこと。税制はフロー大減税によって消費喚起し、個人の可処分所得を向上させるとともに、企業の競争力を強化する。社会保障については、チャレンジのためのセーフティネットを再構築するための手段としてベーシックインカムの導入を本格検討する。そこにある政策コンセプトはあくまで「チャレンジ推奨型の社会」というメッセージが明確であるべきだと思います。これが維新の考える日本大改革プランであり、新しい時代の成長戦略です。
少し前に大前研一さんが「大前流心理経済学 貯めるな使え!」という本を書かれて、私も読ませていただきました。現代社会はオールド経済学の常識が通用しなくなってきていて、国民心理とかマーケット心理をうまく先読みした経済の考え方を持たないといけないとおっしゃっていて、とても納得感があります。現代日本には物が溢れていて、必要なものは買おうと思えばいつでも買える。ところが、新しいモノがどんどん生まれてきたとしても、とにかく無限に消費する社会じゃなくなってきているのが今の日本。大前研一さんはこの現象を「低欲望社会」と呼んでいました。その一番の理由は何かと問われれば、将来に対する漠然とした不安だと私は思います。この将来不安みたいなものが蔓延する後ろ向きな国民心理はやっかいです。セーフティネット機能が脆弱だからかみんなお金を積極的に使わないし、新たな投資とかが生まれにくい心理状況になっている。この低欲望社会においていかに国民心理を前向きに変えるかを考えることが成長戦略につながります。チャレンジ推奨型の社会を目指し、果敢なチャレンジした時に不安がなく失敗してもちゃんとセーフティーネット機能がある社会。失敗してもトランポリンの様に戻ってくることができる社会を目指すこと、それ自体が大きな成長戦略だと思います。セーフティネット論は分配政策であり、成長戦略でもあるんです。国民心理をちゃんと読んで、なぜお金を使わないのか、なぜ消費が活性化しないのか、なぜ企業は積極投資しないのかということを踏まえて政策設計をしなければならないと思います。
また、現政府がデジタルとグリーンに注力しているのは、正しい方向性だと思います。この分野は世界でトップランナーにならないといけません。特に脱炭素社会、カーボンニュートラルといった方向性は世界のコンセンサスになり、産業としても大きな可能性を秘めていますから遅れをとることは許されません。しかし日本は今、デジタル分野においてもグリーン分野においても技術開発や基礎研究で中国やアメリカの後塵を拝しています。私は現政府が目指している方向性はいいけれども、民間活力を最大化するようなインセンティブ設計をいかに政策に盛り込むことを忘れてはならないと思います。加えて、技術開発や基礎研究で世界トップを取りにいくという野心的なビジョンを掲げるべきだと思います。
--MMT(現代貨幣理論)についてどう考えますか?
藤田)まず、もともとランダル・レイ教授やケルトン教授らがおっしゃられているMMTの源流と、日本でトレンド的に話されるMMTは少し表現がずれていてミスリードが起こっているのではないかと感じています。要するに話が飛躍しすぎて、国家は財政破綻しないのでとにかく国債を無限に刷りまくれ、配りまくれと言われる方もいらっしゃいます。MMTの正しい理解は、財政の規律を考える上でインフレ率をちゃんと見ていきましょうということであり、それにJob Guarantee Program (就業保障プログラム)と言われる雇用政策などを組み合わせて理論構築されています。私は、結局最後は実体経済を浮揚させないといけないという問題意識が根本にあるので、成長のためには金融政策と財政政策だけでは十分条件にならないという考え方です。MMTに関連して、日銀は政府の子会社だから資産と負債を一体的にみてよいという統合政府バランスシート理論というのがありますが、これは半分正しくて半分間違っていると思っています。MMTに基づいて大規模な財政出動して国債が積み上がったとしたら、最終的にその担保は日本の信用や信頼なのです。日本の国家財政の担保は、日本社会の安定と、日本の経済がどれくらいポテンシャルがあるかということであり、つまるところ日本の実体経済が本当に足腰の強い状態をつくれているかという裏付けが大事です。社会の変化に合わせてデジタル化し、産業構造もちゃんと転換していく。その中で分配がちゃんと行われ、社会が安定し、経済は成長軌道を描くことができる。このように、日本社会自体が持続可能な構造になっているかどうかが、日本の信用力の源であると言えるのでは無いでしょうか。だから金融政策も財政政策はもちろん大切だけど、それだけではダメで、実体経済や社会構造の議論を腰を据えてやるべきだと思っています。
--表現は若干曖昧にしたとはいえ、骨太方針で2025年度のプライマリーバランス黒字化が堅持されましたが、どのようにお考えでしょうか?
藤田)2025年くらいのプライマリーバランス黒字化って事実上かなり厳しいですよね。プライマリーバランス黒字化や財政健全化を最優先事項に位置付けるべきかというと、私は経済成長を捨ててまでやるべきでは無いという考え方です。財政健全化は経済成長によって進めていくべきだと思います。
骨太方針やスケジュール感などをみて思うのは、コロナショックを経て、日本の経済は今後どうなっていくかという現実的な予測とそれに伴うスケジュールの再構成というのを丁寧にやり直すべきだということ。都合の良い数字合わせやごまかしみたいなものは要りません。例えば、年金の財政シミュレーションの中で、達成できそうもない成長率を計算式に盛り込んで提示するわけですが、それって普通に考えれば不誠実ですよね。そういう不誠実な政治ではなく、良い面も悪い面もちゃんとさらけ出して、まっとうな議論をやりましょうっていう姿勢を政治が持たないといけません。
加えて骨太の方針で、一つ言いたいのは、骨太の方針って単年度計画なんですよ。単年度で毎年ローリングしているだけ。骨太の方針に少しでも文言が入ったら、各省庁が概算要求しやすくなって、予算が取りやすくなる。政治家は陳情に応えやすくなる。そういう政治的思惑の中で毎年の予算が作られて、それが執行される。決算時に事後評価はほとんどすることもなく、また翌年の骨太の方針が出来上がって1年間ローリングするだけ。つまり、中長期の国家ビジョンみたいなものは骨太にはないんです。これが今の政治の根幹にある問題です。普通は中長期のビジョンから逆算して今年やるべきことを決める。企業でもそうでしょう。しかし、政府にも自民党にも中長期の国家ビジョンが無いから、毎年骨太の方針と予算を1年単位でローリングすることしかできない。だからこそ、私たち維新の会は、中長期の国家ビジョンとして税や社会保障や経済政策にどのようにすべきか、全体像をいかに組み替えていくかという新しい社会像を提示したいと考えています。これこそ、現政府・与党自民党にできないことです。
--最後に、来たるべき総選挙・参院選挙2022に向けてのメッセージを。
藤田)日本維新の会はアフターコロナの新しい社会像を提示していくということに本気でチャレンジしたいと思っています。政権与党のことを全否定はしませんし、よくやっている部分もあると思いますが、政府与党の本質的な問題は「現状維持・微修正型の政治」であることです。不具合があれば絆創膏をペタペタと張って、部分的にツギハギする政治っていう手法から抜け出せない。その原因は一言で言えば、積み重なったしがらみや既得権益が大きな足かせになっているから。
そこで、現政権の政治手法を否定するのであれば、私たちが政府のプランAに対するプランBをしっかりと提示してこんな社会像を目指したいと国民に訴えることが必要だと考えました。「新しい時代の政策はこれだ!」というものをしっかりと提示して、揚げ足取りやスキャンダル追求でない国民の未来のために真正面から議論がしっかりできる、そういう政治をやりたい。そのスタートとして、今回の衆院総選挙、来年の参院議員選挙を位置けたいと思っています。そんな思いで、わが党は「日本大改革プラン」という具体的政策パッケージを発表させていただきました。今後も様々なご意見いただいて、引き続きブラッシュアップしていきたいです。新しい社会像をどうやって作っていくのかを真正面から国民の皆さんに訴えかけ、そしてそれは私たち維新の会にこそ実現可能だと感じていただけるような、そんな選挙にしたいと思います。皆様からの引き続きのご支援、よろしくお願い致します。
インタビュー動画はこちらから
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