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金融庁報告書「老後2,000万円不足」で煽るのはミスリードである

2019/06/12

 

先日、金融庁が発表した、高齢社会における資産形成についてまとめた「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書」がとても話題になっている。

https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf

 

報告書の公表後、大手メディアや野党議員が「老後に2,000万円の貯蓄がないと生きていけないとは、年金は100年安心じゃなかったのか!」というような主旨のことをワーワー言って煽っているが、これは完全にミスリードである。

 

報告書をちゃんと読めばわかることだが、この種の人たちは、

・一次資料である報告書を読まずに煽っているか、

・読んでいても読解力がないか、

・参議院選挙前ということもあってわざとプロパガンダしているか、

の、どれかであり、

ミスリードされた情報が拡散されることよって、間違った世論が形成されるのは不本意なので、正確なポイントを書いておきたい。

 

この報告書は、平均寿命の伸びを背景とした「人生100年時代」に備え、若いうちからの資産形成の必要性と、その社会構造に対応した金融商品・金融サービスの提供が求められるということを主張している。

平たく言うと、「若いうちから資産形成に目を向けてくださいね」と「金利の低い普通預金で寝かさずに、税制優遇のある積立NISAやiDeCoに投資してくださいね」という単純なメッセージである。

 

しかし話題となっているのは、「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では、毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20〜30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1,300〜2,000万円になる。」という部分。

 

これはどういう計算かというと、

 

高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯)では、

実収入の平均値は月額約21万円(209,198円)で、

実支出の平均値は月額約26万円(263,718円)であり、

この差額がマイナス約5.5万円となり、95歳まで生きるとしたら単純計算で約2,000万円かかるという計算である。

 

この部分を切り取って「年金だけでは2,000万円足りなくなるから安心できない!」と煽るわけである。

実はしかし、高齢夫婦無職世帯の平均純貯蓄額は2,484万円というデータもちゃんと記載されていて、この貯蓄が不足分を補うことで帳尻が合っていると捉えることもでき、ここをどう理解するかで見えてくる世界は変わってくる。

 

つまり、右肩上がりに給与が増える現役時代を経て、退職金ももらえた世代である現在の高齢者は平均2,500万円くらいの貯蓄があって、社会保障給付を含めた収入が21万円程度だけども、貯蓄した分を趣味や旅行といった消費に回すなどして老後の生活を謳歌していて、支出が収入を上回るくらいお金を使っていると捉えることができる。

特に最近は、貯蓄額の多いシニア層向け高額旅行商品なども人気となっているように、貯蓄額が多い人ほど使う額は大きいわけであるから、平均値として実支出が実収入を超えているという「現象」を、この報告書では単に整理しているにすぎないと言える。

 

さらに経済的側面でいうと、無職無収入であっても貯蓄額の多い資産リッチ層には、もっともっとお金を使ってもらい、消費を押し上げてもらいたいわけで、普通預金に数千万も寝かせてたまま寿命を迎えてしまうくらいなら、フローの収入額を超えてでも消費に回る額が大きくなるほうが経済全体としては望ましい。

 

この報告書には出てこないが、むしろ着目すべきは貯蓄額の世帯分布であり、2,000万円以上の貯蓄がある世帯は約40%(4,000万円以上は18%を超えている)に対して、貯蓄が500万円以下の世帯は約20%(100万円以下で8%)存在する。

よって、ストックの資産が少なく、フローの収入が低い層に対してどのような最低保障を社会として提示していくかという視点に着目すべきであって、平均値でざっくりと「老後2,000万ないと生活できない!」みたいに社会全体の不安を煽るのは、ミスリード以外の何物でもない。

 

むしろ私の問題意識は、税と社会保障全体の構造的課題についてのほうにある。

人口増と右肩上がりの経済成長を前提として設計された今の社会保障制度が、人口減少少子高齢社会でGDPが自然増していかない時代において、はたして持続可能なのかどうかという問いである。

付け加えておくが、高齢者の実支出が実収入を超えているという「現象」と、年金の構造的問題は、論理的にどう考えても別問題である。

 

自民党は小泉進次郎さんらが「リバランス」という言葉を使って、「年金世代でも支え手に回って年金保険料を払う人が増えればいい」という主旨のことを言い始めているが、仕組み自体を変えずに微修正するという自民党の設計思想のままであれば、

・働けるうちは働いてもらい、十分な所得や資産のある人は年金をもらわないようにする、

・年金の支給開始年齢を引き上げる、支給額を引き下げる、

・増税する、保険料を引き上げる、

くらいしかアイデアは出てこない。

 

私は、社会構造が変わる転換期である今こそ、社会保障と税の在り方を時代にあったものに大幅に変えるべきとの立場である。つまり、微修正ではなく設計思想を根本的に変えていかなければならない時代だからこそ、「再分配の仕組み」自体を再定義して設計図を示す必要があるということ。

 

維新は以前から、世代間格差の是正、フロー課税からストック課税へ、賦課方式から積立方式への年金改革、歳入庁の創設、マイナンバーの活用による捕捉率の向上など、本質的議論を立ち上げてきた。

これについては、具体的なアイデアも含めて、私自身の考えを改めて発信したいと思う。

 

麻生大臣はこの報告書を撤回させるそうだが、そもそも撤回して意味あるのか疑問だし、情けなさすぎる対応である。

内容もろくに読まず、論理的な反論もできない政府与党と、参院選前だからって内容をちゃんと読めばおかしいとわかるようなロジックで煽る野党やメディア。

 

まともで論理的な議論ができないことの方がよっぽど恐ろしい。

 

衆議院議員 藤田文武

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