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維新が考えるベーシックインカム論と「新・所得倍増計画」について

2021/01/26

海外でも話題となっているベーシックインカム(BI)は果たして実現可能か。コロナ禍の今、国内外の多くの有識者や著名人からも声が上がり、にわかに注目度が高まってきています。日本維新の会では、党内の社会保障プロジェクトチームがベーシックインカムを含めた「税と社会保障と労働市場の三位一体改革」について、1年以上にわたって議論を進めてきました。

ただのバラマキとしてのベーシックインカムではなく、すべての社会保障を一本化してしまうというような雑なアイデアでもなく、今私たちがすべきは、現代日本の多種多様な社会課題を解決するためのチャレンジングな政策パッケージを示し、議論を巻き起こしていくことだと思います。

まさに、人口減少・超少子高齢社会という日本が直面する構造的問題と、コロナ禍を乗り越え、今こと国民の皆さんが豊かになるための国家ビジョンや新しい社会システムの提案が必要です。

新しい成長戦略、今の経済システムに合致した税体系、持続可能な社会保障、国民の皆さんが前向きに働くことができる労働市場改革など、幅広い分野にわたる政策パッケージの一端をできるだけわかりやすく知っていただけるよう、読みやすいように対話形式で紹介したいと思います。また先日は解説動画もリリースしましたので、そちらもご覧くださいませ。(本ブログの最後にリンクがあります)

もちろん賛否両論あると思いますし、書き尽くせていない論点もありますが、まずは第一弾として多くの人に読んでいただき、ご意見をいただけましたら幸いです。

 

 


ベーシックインカムは実現可能!? 〜維新が考える新しい成長戦略と再分配の仕組み~

 

――日本維新の会では、党内の社会保障プロジェクトチームが「税と社会保障と労働市場の三位一体改革」について議論を進めています。まずは、なぜこの3つがセットになっているか、プロジェクトチームの事務局長として改革案を取りまとめた藤田文武衆議院議員にお聞きします。

藤田) 選挙になると、一番の話題になるのが消費税の話ですよね。消費税を上げるのか、下げるのかという問題、その賛否だけに議論が集中することに違和感があって。なぜなら、税は消費税だけではなく、法人税、所得税、固定資産税、住民税、酒税、たばこ税など、色々あるわけですから、税体系を俯瞰して一体的に考えた方がいいというのが、まずこの三位一体改革を考えた背景にあります。

格差を是正するために取るのが税で、配るのが社会保障と単純化して考えると、成長戦略においては、分配やセーフティネットがあるから果敢にチャレンジし成長できるという側面や、減税するとその部分の負担が軽くなるから勢いがつくという側面がある。つまり税と社会保障は切っても切り離せない“表裏”の関係があるんです。

 

 

――労働市場についてはいかがでしょう?

藤田) 私はぎりぎり就職氷河期世代なのですが、就職時にうまく労働市場に参入できなかった世代は、上の世代より労働条件が悪かったり、雇用の安定性が低かったりする人が多いというのが就職氷河期世代問題。そういう人たちの収入はデータで見ると上の世代より少ないですし、うまく資産形成ができず、年金もきちんと払えていないままお年寄りになる可能性が高い。そうすると「低年金無年金問題」へと繋がり、多くの人たちが十分な年金をもらえないかもしれず、それはそのまま「老後生活保護問題」へと繋がってしまいます。

そういう問題があるからこそ、社会保障と労働市場も切り離せません。だからこの三位一体をパッケージにして提案しようというのが、今回のプロジェクトの趣旨です。

 

 

――就職氷河期世代は入口のワンチャンスで失敗してしまったら、やり直しが効きにくいですし、一度非正規社員になってしまったら正社員になりにくい人が多いとも言われています。そういった働き方にメスを入れるという風にも捉えられますね。

藤田) そうですね。日本社会における労働市場の大きな問題は、人材の流動性が低く、固定化された構造が存在するということです。最初の入口で権利を得られると、ある程度その権利が守られ続けますが、最初の入口で弾かれてしまった人は、この後ずっと参入しにくいという問題があります。

流動性が低いという点では資産も同じで,多くの資産をもともと持っていたり、受け継いだりした人が既得権益化してしまっていたりすることが、社会の目詰まりの原因になっているとも言えます。

 

――なぜ、資産の流動性が低いことが問題なのでしょうか?

藤田) 経済を俯瞰した時、社会全体の資産が付加価値の高い使われ方をしていないのではないかという問題意識です。後々詳しくお話しますが、流動化促進のために資産課税を強化すれば、もっと付加価値を生み出し続けられる社会構造に転換できるのではないか、チャレンジ精神に溢れる社会が実現するのではないかという課題設定です。

 

 

――資産課税については後々お聞きするとして。まずは多くの皆さんが気になっているベーシックインカムについて教えて頂けますか?

藤田) まず簡単に説明をしますと、ベーシックインカムは、所得制限なく、全ての国民に対して、生活を担えるだけの一定の金額を無条件に配るというものです。

 

――コロナ禍で国民全員に10万円が配られた、特別定額給付金に似ているような。

藤田) そうです。特別定額給付金の永遠バージョンとでも言いましょうか。生きている間は毎月、無条件にもらえます。生活を支える土台にベーシックインカムがあり、働いたらその上に収入がオンされる。もらえる人、もらえない人を選別しない。選別しないことで行政コストもカットでき、システムさえ整っていれば全員に自動的に配ることができるというシンプルさがあります。

例えば生活保護と比較をすると、生活保護は本来対象になるはずの所得水準の人のうち10%とか15%ぐらいしか給付されていないと言われています。限られた範囲に手厚すぎる給付が行われているという指摘もあり、「狭くて深いセーフティネット」とも表現できる。生活保護をもらうのは申し訳ないといって申請せずに我慢する人もいれば、手続きが難しくて申し込み自体にたどり着けていない人もいます。それに、不正受給していないかどうかをチェックするGメンのような人も行政に必要で、公平なセーフティネットとして機能しているとは言い難いと考えています。

 

――そこに行政のコストがかかっていると。

藤田) そうです。ベーシックインカムなら、うしろめたい気持ちもなく、ややこしい手続きもなく皆がもらえて、運用コストも安く済みます。

 

――月にいくらぐらいを想定しているのでしょうか?

藤田) 試算では6〜7万円ぐらいを想定しています。これは色んな視点から計算しました。例えば年金は、1階部分が基礎年金、2階部分が報酬比例部分という構造になっています。現役時代に保険料を満額払っていれば基礎年金は月6.5万円ぐらいもらえます。満額払っていない人はもう少し低いのですが、仮にベーシックインカムをやるのなら、その基礎年金部分をベーシックインカムに吸収する形で置き換える想定です。

 

――年金をまともに払っている人にしてみれば、「今まで払ってきた分はどうなるの?」という声が聞こえてきそうですが。

藤田) そういった不安があるでしょうから、年金でもらえるはずだった基礎年金額の6.5万円を下回らないようベーシックインカムの金額を設定し、2階の報酬比例部分はそのまま残します。

少し前に“老後2,000万円問題”というのが話題になりました。金融庁のレポートが一人歩きして、そこに年金の話がくっついて、老後に2,000万円くらい持っていないと生きていけないという話に誤解されて批判の的になりました。この批判の多くはミスリードだったのですが。いずれにしても、そもそも年金は持続可能なのか、専門家からも持続性がかなり危ういと指摘されていますよね。

※参考ブログ→ 金融庁報告書「老後2,000万円不足」で煽るのはミスリードである

 

――年金制度は破綻しないという専門家もいますが、実際はどうなんでしょうか。

藤田) 年金財政は未来永劫破綻しないという説、ある意味これは正しいと私も思っています。どうしてかというと、年金は保険の仕組みですから集めた分と払う分、「入り」と「出」をイコールになるようにバランスしたら良いという考え方。支え手である現役世代の人口がどんどん減っていく超少子高齢社会において制度を持続しようとすれば、現役世代からの保険料を上げて「入り」を増やすか、支払う金額を少なくするか、支給開始年齢を上げていくかで「出」を少なくするか。これしか解決策はありません。いずれにしても明るい話ではありませんね。

 

――やはり年金給付額の減額は免れない?

藤田) 今のままの年金制度でいくと、そうなる可能性は高い。となると、ただでさえ現役時代にちゃんと保険料を払えていない低年金無年金の人や、他に資産がない人は、老後を迎えると年金だけでは実生活が成り立たないですから、生活保護に吸収されるしかないという話になりますよね。ただ、生活保護は全額税金でまかなっているわけです。つまり、年金制度の特徴として、再分配機能が弱いということが言えると思います。

ちなみに年金の1階部分と2階部分について、会社勤めの場合、会社と本人が半分ずつ負担していますが、どちらにいくら払ってるか、ご存じですか?

 

――そう言われてみれば、よく分からないですね。

藤田) これは給与明細にも記載されていないんですけど、年金の財政でいうと一緒くたに入ってきて、その後に基礎年金と報酬比例部分の財政を分けて、すでに基礎年金部分は皆さんが負担した保険料だけでは賄えないので毎年10兆円を超える税金が投入されています。

ベーシックインカムは、これを全部税金に置き換えちゃおうという話で、月に6〜7万円に設定した場合、年金をもらえる年代になった時に本来もらえるはずだった額を下回らないので、ある種の財産権というのは否定されないと考えています。

付け加えると、基礎年金をベーシックインカムに置き換えれば、毎月労働者と企業が支払っている年金保険料は半額くらいになりますから、現役世代の負担も減ります。

 

――なるほど。それなら納得感があるような気がしてきます。

藤田) 年金の1階部分を吸収することに加えて、所得税における各種控除を無しにすること、この2つがベーシックインカムを実現可能にする大きな要素です。

今は所得控除や扶養控除、生命保険や不動産購入に対する控除などがありますよね。なので仮に、額面で年収500万円くらいあったとしても、実際に税率をかけられる課税所得は半分くらいになります。今の自分の額面給与は言えても、何にいくら税金を取られて、手取りがいくらになるかを瞬時に正確に答えられる人はほとんどいないのではないでしょうか。そういった控除を無しにしてベーシックインカムに置き換えれば、実際に自分がいくら稼いで手残りがいくらになるかも簡単に計算できるようになります。

加えて、所得税の計算は極限までシンプルにして、フラットタックスと総合課税を組み合わせるべきだと思っています。

 

――聞き慣れない言葉が出てきましたが、フラットタックスとは?

藤田) 日本は累進課税といって所得が増えるほどだんだん税率が上がっていく仕組みですが、10%なら10%と定めて、500万円稼いでる人も1億円稼いでる人も皆10%にしようというのがフラットタックスです。現実的には、10%と20%~30%ぐらいの二段階にするのがいいと思いますが、これとベーシックインカムを組み合わせることで、いわゆる給与所得をもらっているすべての人の手取りが減らない税率設計が理想だと考えています。

 

――所得が高い人にベーシックインカムをあげる必要性とは?

藤田) まず1つに、皆が負担をして皆がフェアに恩恵を享受する社会の方がいいと思っているからです。というのも所得が高い人からとにかく取って、低い人にだけ配るというのは、そもそも高い人からすると納得がいかない気持ちが消えない。一番重要なのは公平性ですから、じゃあどうやって公平性を実現するかは、社会保障と税と組み合わせるべきだと思っているんです。あと、例えばセコい話ですが、仮にベーシックインカムを年収500万円以下の人だけもらえるように所得制限をつけたら、個人事業主や会社経営者のように自分で自分の年収を決められる人は500万円をギリギリ上回らないように設定するでしょうね。所得制限をなくして、誰がもらえて誰がもらえないかを選別しないということは、公平かつシンプルな制度をつくるための最も有効なやり方です。

ベーシックインカムを課税対象にすべきか非課税にすべきかの議論はありますしどちらでも設計できますが、私は非課税にしてお金持ちにもベーシックインカムを配り、その分適切に納税して頂いて帳尻が合うほうが良いと。

 

――では、高齢者の方に対してはいかがでしょう。働きたくても働けない方がいる中で、6〜7万円では心もとないのでは?

藤田) ベーシックインカムはその特徴として現役世代に有利な政策とも言えます。ですから、高齢者、特に単身の高齢者さんにはプラスアルファでお金を付けるのがよいかと。例えば高齢者には月に2〜3万円をプラスする、単身であれば更に2〜3万円をプラスするのがいいのではないかと思っています。ただ、そうするとたくさん資産を持っている人や、年金の2階部分である報酬比例を多くもらえる人の中には、お金をもらい過ぎてしまう人もいるわけですよね。ベーシックインカムでは、そういった人にも当然プラスアルファ2〜3万円を分配しますが、後々クローバック制度で返納して頂こうというイメージを持っています。

 

――クローバック制度というのは?

藤田) 亡くなられた時にプラスアルファの2〜3万円部分が残っていたら返金して下さいね、という制度です。このクローバック制度をいわゆるベースの6〜7万円部分にもかけるべきか、プラスアルファの部分だけにかけるべきかといった議論はありますが、私はプラスアルファ部分だけでいいのではないかと思っています。

具体的には、ベーシックインカムのベース部分が6万円、プラスアルファ部分3万円の月額合計9万円を100ヶ月もらっていたとします。するとベース部分で600万円、プラスアルファ部分で300万円もらったことになりますね。その人が亡くなるときに1,000万円の資産が残っていたら、そのうち300万円だけは返納してくださいねということです。事前の所得制限ではなく、事後の所得制限としての調整機能ですね。ただ、亡くなるまでに全部使ってしまった場合には、それはそれで消費拡大に貢献するわけなので、返納を求めないという制度です。

 

――国民1人1人に給付されるということは、お子さんが多い世帯が得をすることになり、少子化対策にもなるのでは。

藤田) その通りです。仮に夫婦で子供が2人いる場合、4人家族ですから、もし1人6万円もらえるとしたら、月24万円もらえることになります。子供がいない単身の世帯に比べて、子供がいる世帯の方がたくさんもらえますが、子供を産み育てるにも多くのお金が必要です。その子が大人になって働く側に回ることで経済や社会に貢献するという循環を考え、子育てを社会全体で支援していくという意味では、子供が多い人の方が金銭的には得をしますよと、はっきり明言してもいいんじゃないかという考えです。

 

――コロナ禍で雇い止めもあり、シングルマザー、シングルファーザーにとって月に2人分ないし3人分のお金が保証されていたら、多少の仕事のブランクがあっても食いつないでいける安心感があります。

藤田) ただ気を付けないといけないのは、無理やり子供を産ませて、そのお金を子供のために使わずに取ってしまう親が現れるという問題。これは実際起こりえますし、無視できない問題です。しかし、だからといってベーシックインカムの全体設計が悪いのではないと思っていて、それはそれで個別に対応していくことは大前提として、まずは、国民1人1人が経済的に安心できる社会制度を目指すべきだというのが根本的な考え方です。

また、ベーシックインカムは全国一律の金額で支給する想定ですから、家賃をはじめ生活コストの高い都心部よりも地方のほうが得になるとも言えますね。その点は地方移住のインセンティブとして認めてしまっていいと思っています。

 

 

――その他にベーシックインカムの問題点はありますか?

藤田) 皆様からご指摘いただく主な批判点として、大きく2つあります。1つはお金を無条件にもらうと、みんな働く意欲をなくしてしまうんじゃないかという問題。もう1つは、財源をどこから持ってくるのかという問題です。

 

――その点についてはいかがですか?

藤田) まず労働意欲の低下でいうと、諸外国におけるベーシックインカムのいくつかの先行研究をみれば、労働意欲の低下は起こらなかったという結果が示されています。ただし、これはあくまで期限や地域を限定した試行実験をもとにしたレポートであって、労働意欲の低下の可能性について私は全否定できないと思っています。ただ、ベーシックインカムの導入と同時に、いくつかの制度を無くしてしまうことで、その問題が解消されることもあります。

例えば、生活保護。生活保護は働いて収入を得ると支給額が減らされますから、そのまま働かない方が得じゃないかという発想に陥りがちで、労働意欲を低下させてしまい、悪循環から抜け出せない人もいます。ベーシックインカムにすればこういった人は減ると思います。もう1つは扶養控除です。

 

――103万円の壁と言われるものですね。

藤田) はい。パートとして働いている人は、保険料が高くなる、税金が高くなるから扶養内に収まるよう収入を調整する人が多い。例えば、パートの時給が上がると「壁」を超えないように勤務時間を減らそうとする。これって、社会全体の労働力で考えても、もったいないですよね。扶養控除を無しにしてベーシックインカムに置き換えれば、多くの方が、それならもう少し長い時間働こうとなるはず。今だったら月8万円程度の収入に無理やり抑えているけど、それなら10万円とか15万円ぐらいまで働こうと、労働意欲が高まるのではないかと思っています。

 

――続いて、ベーシックインカムの主な批判点である“財源”についてお話をお伺いしたいと思います。

藤田) まず誤解のないようにお伝えしたいのですが、「ベーシックインカムを導入して、すべての社会保障を一本化したら、弱者切り捨てのひどい社会になる」という批判がありますが、私が考えるのはそういう無茶な一本化ではなくて、ベーシックインカムを導入しても医療、介護、障害福祉、教育、保育といった現在行われている社会保障サービスはほとんど残るというもの。今回、財源の試算をする際にベーシックインカムに吸収して計算したのは、生活保護の生活扶助部分、児童手当、年金の一階部分である基礎年金で、それ以外の社会保障は据え置きという設定でまずは議論を進めました。

財源論の回答としては、維新がずっと言ってきた「フローからストックに課税の比重を変えていく」ことをベースにして税体系を一体的に改革することで解決できると思っています。ちなみにフローの税、ストックの税とはそれぞれどんなものがあると思いますか?

 

――フローは英語で流れるという意味なので、代表的なものでいうと消費税でしょうか。

藤田) その通りです。流れているもの、動いているもの、つまり日々付加価値を生み出しているものをフローと呼び、消費税、所得税、法人税の3つが税収の大きいフロー課税になります。

ストックとは英語で貯蓄の意味ですから、貯まっているものに対して課税されるものです。今あるものでいうと固定資産税、所有しているお家や土地などへの課税です。ちなみに、相続税もストック課税の一つです。

 

――フローからストックに課税の比重を変える、その目的とは?

藤田) 日本は平成の30年間、GDPが自然増せず横ばいで、消費も拡大していない。家計の話でいうと給与水準も上がらず、むしろ下がっています。にもかかわらず、漠然とした将来への不安から個人の貯蓄はどんどん増えていっている。家計だけでなく企業の内部留保、現金も積み上がっている状況です。つまりフローの流れが詰まっているのに、ストックだけが貯まっていっている状態なんです。海外と比較すると、フローの目詰まりによって日本は投資への魅力が低い国になってしまっているという課題意識があります。

 

――将来に備えて貯蓄がするのは良いことでは?

藤田) たしかに内部留保について、私自身は否定的な立場ではありません。今回コロナ禍でも、内部留保がなかったら潰れていましたという会社はたくさんあります。そういう意味では悪くないんですけど、このストックにはほとんど課税できていないという現実もある。

フローだけを課税対象として着目するのではなく、ストック側にも課税することで流れを良くしよう、日本の経済を活性化しようというのが、フローからストックに比重を変える一番の目的です。いわゆる「追い出し税」としての効果を見込んで資産課税を活用し、あらゆる規制緩和と組み合わせることで経済におけるフローの循環を良くすることを目指します。人口減少社会でGDPが自然増しない、いわゆる成熟社会とも言える日本だからこそ、フロー課税からストック課税への転換が必要であると考えています。お金の流れを「貯蓄」から「投資・消費」へ向かわせること。私はこれを、「ストックのフロー化戦略」と呼んでいます。

 

――イメージで言うと、代謝のいい社会を目指そうということでしょうか?

藤田) おっしゃる通りです。成長のために税のインセンティブを変える。フローからストックに課税の比重を変えることで、新陳代謝の良い、健康体で足腰の強い社会を目指すという考え方です。

具体的な案をお話しすると、フロー課税である消費税、所得税、法人税を下げること。その代わりに固定資産税を少し上げさせてもらうか、租税特別措置といって免税や減税対象になっている資産に適切な税をかけること。現行の固定資産税は1.4%ですが、様々な特別措置などもあり、時価に対しての課税率は0.4%程度だとも言われています。

今は、課税されないからとりあえず土地や建物を持っておこうという人も多く、有効に資産が使われてないので、そこに課税するか、もっと流動性を上げて付加価値を生み出してもらう資産にしてもらうなど、フロー側にプラスになるようなインセンティブを働かせることが大事です。

 

――企業の内部留保に課税すると、企業から反発を受けるのでは?

藤田) ご批判は確かにあるでしょう。だからこそ税制は税体系一体で考えるべき、フローとストックの両方を考えるべきだと思っています。会社で考えた時に、資産をたくさん代々受け継いで、不動産も持っていて、でも現在進行形で付加価値を生み出せていない企業、大して利益を生み出していない企業は法人税をほとんど払わないですみます。つまり、税でいうと得してるわけですよね。

一方で、資産を持っていないにもかかわらず、付加価値を生み出そうと果敢にチャレンジして利益を上げているところは法人税をたくさん取られている。そういった構造にメスを入れたい。社会の資産を有効に使い、現在進行形で社会に付加価値を生み出している企業は減税、そうでなければ社会のために還元して頂こうと。

 

――なるほど。チャレンジする人を後押ししたいと。

藤田) 資産課税は保有コストが上がるということ。つまり、所有者はただ持っているだけでは目減りしていくから、それ以上の付加価値を生み出そうとする。もしくは、付加価値を生み出せないのであれば手放す。そうすると、より付加価値が生み出せる所有者のもとに資産が移転していき、これがフローの好循環につながるんです。かつ、付加価値を生み出しているものに対しては減税されるので、手残りが多くなるというわけです。

資産課税は、経営者や投資家が嫌がるのではないかという批判もあるでしょう。でも、考えてみてください。社会全体の資産が流動化し、有効活用され、付加価値を生み出すようになれば、市場全体の資産自体の価値が上がります。保有コストが多少かかることを嫌がるよりも、資産自体の価値が上がることのほうがメリットとして何倍も大きいと、多くの合理的な経営者や投資家は知っています。そして何よりも、多くの国民の皆さんを豊かにする事につながります。

 

――資産をちゃんと把握して適切に課税できるのかという疑問もあると思います。資産を隠すなどズルをする人もいるのではないでしょうか?

藤田) そこは最大のポイントですね。適切に捕捉するためには、制度をシンプルにすることが最も重要です。制度は複雑なほど逃げ道があり、シンプルにするほどズルをしにくくなります。加えて、収入と資産を正確に捕捉するための制度インフラとしてマイナンバーのフル活用は必須だと思います。それから、私は相続税はゼロにするのが理想だと思いますが、資産隠し防止のために、相続税を1%などの低税率に設定して必ず申告してもらい、資産隠しが発覚したら追徴課税を重くする工夫を導入すれば一定の抑止力が働きます。

税は税率設定も大事ですが、重税感をいかに取り除くかのほうが大事。いかに公平公正なシステムを実現して納得してもらうか、徴税コストをいかに下げか、捕捉率をいかに上げるかがポイントです。セコい節税や危険な脱税なんかをするよりも、真っ当に納税するほうが得になるという制度設計にすべきでしょうね。

 

 

――こうした新しい税体系がベーシックインカムの財源になるわけですけれど、ずばり、いくらぐらいの財源が必要なのでしょうか?

藤田) ベーシックインカムを国民全員に月6〜7万円程度支給するとすると、年間100兆円規模の予算が必要となります。

この財源を確保するために、まずフロー課税である消費税、法人税、所得税を下げ、経済を活性化します。消費税を下げることで消費を喚起する。これらは、とにかく経済を回していくこと、フローを活性化させることが目的です。法人税についても減税し、租税特別措置という特別に税制優遇を受けているものを全廃するぐらいの気持ちで、時代に合わないものを無くしていきます。そうすることで企業の競争能力が高まります。

所得税は各種控除をベーシックインカムに置き換えた上でフラットタックスにします。加えて、今現在は分離課税といって、利子や配当といった金融で生み出された利益に対してかかる税金は別枠で20%の課税上限を設けていますが、これを無くして総合課税に変えること。これで総額としての大幅な増収が見込めます。ベーシックインカムと合算して給与所得者のすべての所得階層で、手取りがプラスになるように税率設計しても、30〜40兆円規模の余剰を見込むことが可能です。

そのかわり、相続税や贈与税は廃止にするか、1〜2%といった、ものすごく低率にすることをセットでやるべきだと考えています。相続税は諸外国を見渡せば廃止する方向に向かっていることと、捕捉率が悪いというのが着目すべき点です。毎年の相続資産は50〜100兆円程度あると言われているのですが、相続税収は約2兆円です。つまり、2%程度しか取れていないんですよね。それならば相続税を廃止するか極限まで低くして、先ほどお話した資産課税を薄く広く課税するほうが効率が良い。単純計算ですが、家計、非金融法人、政府の金融資産の元本に対して、仮に1%課税したとすると30〜40兆円という金額が出てくることになります。資産課税の税率は1%くらいまでが上限でしょうし、それも市場金利などの状況を踏まえながら段階的に上げていくようなステップを踏む必要はあると思います。

加えて、生活保護の生活扶助部分約2兆円、児童手当の約2兆円を吸収し、基礎年金に使われている国庫負担金分の10兆円超、クローバックによる返納分、行政効率化効果による歳出削減などを財源に見込むことができます。

もちろん、細かい設定は検討が必要ですが、税や社会保障の専門家にも入ってもらってシミュレーションしています。以上のように、税体系を俯瞰して社会保障改革と組み合わせれば、100兆円という財源を生み出すことは荒唐無稽ではないということは、頭の体操として十分に試算できます。

 

――100兆円の社会保障となると、よく言われる「大きな政府」のようなイメージになるのでしょうか?

藤田) 「大きな政府」か「小さな政府」かということは、いろんな視点で語られ、維新は「小さな政府」論じゃなかったのかというイメージは実際にあると思います。しかし、維新の政策思想を丁寧に読み解けば、正しくは「小さな政府」論ではなく「小さな行政機構」論なんです。100兆円という大きな予算を再分配に使うわけですが、ベーシックインカムはその支給過程において行政の裁量性や恣意性が排除されます。制度がシンプルになり、行政コストも下がります。そう考えれば、「小さな行政機構」論の究極の形ですね。

 

 

――そのような大改革をしてまでベーシックインカムを導入する、その狙いとは?

藤田) ずばり経済成長のためです。平成の30年間、自然成長していない今の日本社会に成長を促し、公平な競争が生まれる社会を目指すために税のインセンティブを、ガラッとフルモデルチェンジする。それが「税と保障と労働市場の三位一体改革」のコンセプトです。

 

――新しい日本を背負う若者にとって、光になり得る政策であって欲しいですね。

藤田) 「チャレンジを後押ししよう」というのは、日本維新の会の党のコンセプトです。ただ、チャレンジで失敗した人に冷たい社会であってはいけませんから、挑戦をする人に対して安心できるセーフティネットを整備する。そして、再チャレンジできる世の中を作っていく。これが、この三位一体改革の背景にあります。

 

 

――話をそもそも論に戻しますが、この「税と社会保障と労働市場の三位一体改革」でどんな社会を実現できるのでしょうか?

藤田) 日本は人口減少、少子高齢化で人口動態が世界各国の中でも一歩進んでいますよね。経済成長は平成の30年間鈍化していて、全く成長していないことはこれまで述べてきました。そういったことが背景にあり、社会全体に漠然とした不安が蔓延している。

そこで、複雑化してがんじがらめになっている古い社会システム自体を変えれば、社会の在り方が確実に変わる。そこでまずは、皆さんの社会生活を支えている大きな要素である税、社会保障、労働市場に切り込むことが大事だと思ったんです。

維新は大阪では与党だけれど、国政では野党ですから、今まで政治の中心にいた自民党が作り上げた社会像に対し、我々が考えたプランBをぶつけて論戦する、どんどん戦えるようなパッケージが必要だと思ったことも、大きなきっかけです。

 

 

 

――自民党と日本維新の会が考えている政策思想は、どう違うんですか?

藤田) 自民党も千差万別で色んな先生方がいるので、個別の先生がどうこう言うつもりはありませんが、これまで自民党という政権政党が形作ってきた社会、政策思想として、基本的に社会のシステムは“現状維持”で“微修正型”なんです。基本的に根幹を大きく変えない、それはなぜかというと、既得権益がたくさんへばりついているから大きく変えられないんです。

一方、維新は社会のシステム自体を大改革しようというのが政策思想の柱にあり、「既得権益の打破」を掲げ続けてきました。

 

――既得権益に切り込んでいくのは、大阪の例を見てもたしかに大変なことですね。

藤田) それに自民党の政策の多くが、現世利益主義的といって今の利益を最大化させよう、今関わってる人たちにすぐ喜んでもらえる政策をやろうとするものがほとんどです。

一方、維新は教育の無償化を筆頭とした未来への投資であったり、統治機構改革であったり、次世代のためになるものが多いんですね。違いを挙げればキリがないのですが、一言でいうと自民党は“調整型の大人の政治”、維新の会は“一点突破型のチャレンジする政治”です。よく、維新は自民党の補完勢力だと言われますが、政策思想は全く違います。

 

――そこで、ベーシックインカムを軸とした三位一体改革が大きなキーポイントになると。

藤田) ベーシックインカムを軸として、税や社会保障のあり方を考え直し、再分配の仕組みを再定義しようという話です。ベーシックインカムは単なるバラマキではなく「チャレンジのためのセーフティネット」として機能させる。そして、前向きにどんどん付加価値を生み出していける社会を作ること。これが、三位一体改革の目指すところです。 “新しい社会像”を提示するのは政治の責務ですし、私たちが政治家として果たすべき役割だと思っています。

この三位一体改革と成長戦略が実現できれば、10〜15年くらいで現役世代の可処分所得を倍増するくらいの可能性は十分に考えられると思います。「新・所得倍増計画」と呼べる政策パッケージです。

 

――思い描く“新しい社会像”のイメージとは?

藤田) 果敢なチャレンジを推奨し、公平公正な競争ができるようになると同時に、社会の当たり前のレールから外れてしまった人やちょっと失敗した人をちゃんと押し上げられるような、社会的弱者に優しい世界観をイメージしています。

こういった社会は、失敗してもいいからチャレンジしようと思わせてくれるセーフティネットの役割を果たしてくれるので、税制と社会保障、労働市場をパッケージとして整備し、新しい成長モデル、新しい社会像を実現させたいと思います。(了)

 

 

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【前編】ベーシックインカムは実現可能!? 維新が考える「三位一体改革」 ~新しい成長戦略と再配分の仕組み~

 

【後編】ベーシックインカムは実現可能!? 維新が考える「三位一体改革」 ~新しい成長戦略と再配分の仕組み~

 

【まとめ】世界初!ベーシックインカムと新成長戦略の設計図はこれだ! 維新の「税・社会保障・労働市場の三位一体改革」を丸ごと解説!

 

参考動画)維新deGO!特別企画 〜労働市場改革について〜 2019年12月26日(木)

 

 

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