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公募DXで維新を革新〜候補者選考プロセスの裏側〜(幹事長ノート 2024.9.8)
2024/09/08
自民党総裁選において岸田総理が不出馬を表明しました。新政権誕生による「刷新感」を演出した上での今秋の解散総選挙が現実味を帯びてきました。
私たち日本維新の会は、来るべき衆議院選挙の候補者擁立に向けて、160人規模の選挙区支部長の選任を進めてきました。候補者を発掘し選考するという仕事は、党幹事長・選対本部長の最も重要な仕事の一つです。国政選挙にしても、地方選挙にしても、より良い人材を公認し後押しするにはどうすればいいか、選挙実務を担当するお役目をいただいて以来、ずっと試行錯誤を続けてきました。我が党の積年の課題を解決するために取り組んできた候補者の「公募DX」について今回はご紹介させてください。
公募プロセスのデジタル化
これまで維新から立候補を希望する方は、維新の公式サイトから紙のエントリーシートをダウンロードして記入し、立候補を希望する都道府県の支部に郵送していました。各支部が書類を受け付けると、書類選考を経て、支部役員などとの面接に進みます。選考を通過した地方議員・首長の候補希望者は各支部で公認され、国会議員・都道府県会議員・知事・政令市長の候補希望者は党本部での最終承認を経て公認されるという流れでした。
「公募DX」では、応募書類の受付から選考までのプロセスをウェブ上で進める仕組みを導入しました。書類選考や面接など各審査段階での評価内容も書き込まれ、個人情報保護の関連法規に則った上で選考が進みます。最終的に公認が決まると、決定権者が「公認」ボタンを押すことで、直ちに党のサイトに候補予定者の写真とプロフィールが掲載されます。
民間の採用手法を政治に応用
「なんだ、そんな程度のことなら民間企業はすでにどこでもやっているよ」と思われた方も多いと思います。もちろんその通りです。しかし、我が党に限らず、政治の世界ではエントリーシートと郵送先をネットに掲載しているだけ、というところが多いのが実情です。
デジタル化が進む前の民間と同様、選考業務に関わる議員以外の事務局スタッフが手作業で対応することも多く、煩雑かつ非効率な状態でした。「公募DX」により、民間企業と同じく、私たちもエントリーから公認まで一気通貫してデジタル化したことで、作業が迅速になり、効率化が図られました。
公募DX導入の真の狙い
しかし、「効率化」だけが「公募DX」導入の理由ではありません。もう一つ大きな目的として、先行プロセスの「見える化」があります。この「見える化」を通じて組織の公正なガバナンスを強化することが目指されています。言うなれば、質の高い候補者人材を掘り起こし、受け入れる組織自体を、風通しの良いものにしていくことです。
これによって、例えば「情実人事」に対しても、一定の歯止めが効くようになります。これまでの政治の世界ではしばしば漏れ聞こえる話ですが、決定権者のえこひいきや縁故優先で公正な選考がなされない、ひどい場合は形ばかりの公募にして「意中でない」希望者のエントリーシートをたなざらしにしているということもあると聞きます。
しかし、DXで全ての記録を保全することになれば、受付からどの段階に進んでいるかも一目瞭然であり、事後での検証も可能です。関連するメールのやり取りも、権限者が手続きを踏めば閲覧できるようにしています。
公募DXの特徴とガバナンス強化
もちろん、審査段階ごとにアクセス権限をコントロールできるように設計しています。例えば、最終面接は支部の代表や幹事長と選対責任者だけが閲覧できるように設定するなどです。各支部の個別案件に党本部が介入することはほとんどありませんが、ごく稀なケースで何か確認する必要が生じた場合には、馬場代表や幹事長・選対本部長である私もアクセスできるようになっています。
なにより、面談等での評価を共有し、それぞれが評価した内容に責任を持ち合うことができます。政治の世界では何事も属人的な話になりがちですが、選考過程を公正にするという観点からデジタル活用により仕組み化することで、誰が決定権者であっても公正な選考プロセスを担保できるようになります。
民間企業の「ATS」がヒント
このシステムは、1年半ほど前に党本部で少数精鋭の開発チームを結成し、優秀なエンジニアの協力を仰いで、完全オリジナルのシステムを構築しました。
ヒントを得たのは、近年民間企業での導入が増えているシステム「ATS」です。これを選挙の候補者選考にも取り入れることができないかと考えました。ATSは「採用管理システム」として紹介されますが、「Applicant Tracking System」、つまり「応募者追跡システム」として、リクルーターや企業が人材募集および採用プロセス全体で求職者を追跡するためのプラットフォームのことです。これを政党の選挙実務に応用しました。
民間企業で実施されている採用ノウハウは、これまでも様々取り入れてきました。例えば、ファーストコンタクトのハードルをいかに下げるかという取り組みです。企業の会社説明会を参考に、ネット広告を積極的に活用し、批判も覚悟の上で「地方議員というキャリアを転職の選択肢に」というキャッチフレーズを打ち出し、完全オンラインでの候補者エントリー説明会を実施。結果、延べ数百名の方が参加してくださり、私から党の目指す方向性を話した上で、気軽に質問や相談ができる双方向の説明会運営を行いました。実際に、参加者の中から約100名にのぼる方々が公認候補者として選挙に出馬してくれたことは非常に嬉しいことでした。おかげさまで2023年4月の統一地方選を経て、全国に800名を超える議員が誕生し、一定の成果を出せました。
公募DXの意義と未来
もちろん、属人的な作業を全て否定しているわけではありません。人が全ての基となる組織において、属人的な熱量で乗り切らなければならない局面はたくさんあります。デジタルはそれらを効果的に補完するものであり、公認DXの導入により内部の決裁ラインが可視化され、公正な選考プロセスを担保し、ガバナンスを強化することを目指しています。恣意的な情実人事を極力排除し、公明正大な選考を可能にすることは、組織の透明性と信頼性を高める重要な要素です。
よく「政治の世界は民間より遅れている」と言われます。しかし、上場企業であっても課題のない組織はないし、人事戦略にはどこも頭を悩ませています。こうした問題を解決するために、民間企業は人事マネジメントシステムを導入し、「優秀な社員を見落とさない」、「離職防止に繋げる」といった取り組みを進めています。
組織の強化とガバナンス
これらのシステムは、いわゆる「30人の壁」を越え始めた成長企業には特に有効と言われます。社長の目が届くのは30人が限界と感じる経営者も多いようです。壁の人数が30人か50人か100人かは経営者によるかもしれませんが、いずれにしても、組織が拡大する過程においては、「仕組み化」によってチームとして人事戦略を管理しなければなりません。
組織を安定的に発展させるためには、能力本位、人物本位、かつ、公明正大な選考過程を見える化していくことが重要です。既存政党には歴史と同時にしがらみがあり、我が党のようにDXを駆使して組織の仕組みごと大胆に作り変えるのは簡単ではないでしょう。
私たちは、属人的になりがちな政党の人事戦略を組織的にアップデートすることで、維新らしく自らが改革を体現する先駆けになる。これは理想論かもしれませんが、他党からも模倣されるくらいになれば、質の高い人材同士での政策競争に繋がり、長い目で見て我が国の政党運営の刷新が少しでも進むのではないでしょうか。
公募DXの意義と自民党との違い
組織を活かすも殺すも人材次第です。自民党総裁選では2ケタを超える候補が取り沙汰され、妙な「盛り上がり」を見せていますが、「盛り上がり」が「めくらまし」に終わる可能性もあります。しかし、それでもなお、自民党が多彩な人材を擁していることは事実であり、その底力は認めざるを得ません。
とはいえ、自民党の問題点も明らかです。問題を起こした人も、改革をしようという人も同じ組織の中に存在し、表裏一体の関係にあります。こうした状況を見れば見るほど、「ヒトこそがガバナンスの基礎である」と改めて感じさせられます。
私たち維新の会はまだまだ発展途上です。「公募DX」のように、テクノロジーからのアプローチで、透明で公正な選考プロセスを確立し、より良い候補者を発掘することで、党全体の質を高めていきたいと考えています。これにより、より多くの優秀で使命感の高い人材を輩出し、我が党の「改革」理念を実現するための基盤が整い、政党としての信頼性を高めていきたいと思います。
しかしテクノロジーは決して「魔法の杖」ではありません。発展途上の拡大期にある組織は日々課題に直面しますが、常にアンテナを貼り、民間や他党のアイデアであっても良いものは取り入れ、スピード感を持って日々改善していくことが求められます。一つ一つ、日頃からの積み重ねなくして国民からのご信頼を得られる事はできません。引き続き、信頼される政党を目指して、党所属の仲間と共に頑張りたいと思います。
日本維新の会 幹事長 藤田文武